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海路からのアイルランド上陸体験記

ビートルズゆかりの町、リバプールの港からアイルランド行きのフェリーに乗船していく客層は、時期的にも当たったのか見るからにアイルランド系でほぼ占められていて、一家の里帰りやリバプールの親類を訪ねた帰りという雰囲気。抱き合って別れを惜しむ人々や沢山のお土産を携えた人々を目の当たりにすると、まるで人々の生活の深部に迷い込んでしまったような錯覚にとらわれました。そんな中に混じって乗った船内には、あちこちにバーやカウンターがしつらえてあり、開店をいまかと待っている様子です。夜行フェリーなので高額を払えば個室のベッドでゆっくり眠りながら渡航することもできるのですが、そこは貧乏学生のアイルランド旅行、一般のシート席で休めればじゅうぶんと、とりあえずリクライニングシートのあるフロアへ向かったのですが、だだっ広い仮眠用のフロアには誰一人乗客の姿は見えず、物騒なことこのうえありません。あんなにたくさんいた人々はどこへ行ってしまったのか?答えは簡単、アイリッシュたちは全て階下のパブに集結していたのです。

夜行フェリーで迎える朝、ダブリン湾とウィックローの山々が近づいてくる感動の瞬間です。出航すると間もなく、船内のパブやカウンターが一斉に営業開始。広いパブのゆったりとしたソファや椅子にほぼ全ての乗客が、小さい子ども連れの家族までが座り込んで賑やかなことこのうえありません。アイルランドまでの距離は実際はそれほど長いものでもないので、船は途中で止まってしまい時間つぶしを始めますし、人々は眠る気などこれっぽっちも無い様子で、飲んで歌っての大騒ぎがいつまでも続きました。誰かがギターを弾き始め、その一角に歌声が上がったかと思うといつのまにか広いフロア中が1つの歌声になってしまうこともしばしばで、音楽の大好きな国民性をつくづく見せられる思いでした。

それでもさすがに夜明け頃になると船内は静かになってきて、あちこちでいびきが聞こえ始めました。夏のイギリス海峡は夜明けの時間も早く、空は見る間に明るさを増していきます。すると間もなく、船の行く手には到着先のダンレアリの灯台の明かりが点滅するのが見えてきました。少しずつ近づいてくるアイルランドの地。船内放送にアイルランドの伝統音楽が鳴りはじめ、いっそう情緒を盛り立てます。海路からのアイルランド入国は、高価なキャビンではなくエコノミーな一般フロアで、飲んべえのアイリッシュ達と騒ぎながらで正解だったと確信した瞬間でした。